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周藤蓮「バイオスフィア不動産」を読んだ感想(書評/ネタバレなし)

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分断されていく社会をSFに落とし込んだ?

人々がそれぞれ個人の幸せのみを求め、外の世界との交流をなくし、自分の望みを何でも叶えてくれるハイテクな家に閉じこもる。今まであまり読んだことのない世界観のSF小説でした。なぜこのような他にみない独特な作品が2022年に発売されたのか?

「小説には多くの読者に共感してもらえるよう、その読者を取り巻く社会が多少なりとも反映されている」そう仮説を立てたときに、人々が家のなかに閉じこもるという設定は、新型コロナウイルスによるパンデミックが反映されているのではと考えました。

人々が室内に閉じこもり人との交流を避け、学校で友人と会わない・会社の同僚と飲み会に行かない・海外に旅行に行かない。そんな時代性をぎゅっとSFに落とし込んだのがこの小説なのではないでしょうか?

またパンデミックに限らず、現代は人とのつながりが少ないとよく言われます。複数の世代にまたがっていた家族が親と子だけになり、隣に住んでいる人の名前もわからない。そしてみんながスマホに閉じこもって生きている。自分を満たすだけのプライベートが優先できるようになり、あらゆるものがパーソナライズドされ現代社会で、得たモノもあれば失ったモノもある。深く考えさせられました。

どんどん魅力的になっていく主人公

僕は主人公となる少年の尖った性格が最初は好きではありませんでした。口が悪く、人に対して突っかかる。自分の身の回りにいたら絶対友達になれないタイプです。

しかしなぜ彼がそのように人に対しキツくあたってしまうのか。その理由となる過去のエピソードや背景には正直同情しました。また自分の思いと社会のギャップに葛藤する姿には人間味があり、それを乗り越え誰かに優しくできたときは感動しました。

また最後には、人々が個人の理想に籠もるのが普通になってしまったその世界で、ただひとりその異常性を唱え、皆が外に出ることを願った彼を応援したくなる自分がいました。

読みやすい分量

本書はページ数が多すぎないところが良かったです。短編集ではありませんが、構成はそれに近しいです。主人公とその相棒であるロボットが各章で一件ずつバイオスフィア建築をまわっていく、それぞれの家で中に住んでいる人たちの生活や考え方が異なり、読者はその異文化に触れていく。次の章ではどんな家出てくるのだろうと読み進めることができる楽しさがこの小説にはありました。

この構成であれば、舞台がバイオスフィア建築が地上にあふれている世界のため連載モノにできるはずです。著者のエゴが強く自分の世界観をごり押ししたい場合だと、章の数を延々に増やせそうな題材です。しかし、そうはならず文字も比較的サイズが大きかったので、とても読みやすかったです。

この作品の前に読んだ「アポロ18号の殺人」上下巻で700ページ超えだったので、小説がっつり読む習慣のない自分にとっては、その世界観が好きだとしても正直しんどかったです。読みやすいSF小説を求めている方にはオススメです。

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